日本の医療現場は、慢性的な看護師不足という深刻な課題に直面しています。少子高齢化が進行する中で、看護師の需要は高まる一方であり、多くの医療機関が人材確保に苦慮しています。このような状況の中で多くの事業所が人材紹介会社に頼らざるを得ないのが現状です。しかし、紹介手数料や、自社の理念に必ずしもマッチしない人材の採用など、人材紹介に依存してしまうことは様々な問題も引き起こします。
紹介会社を上手に活用していくことは悪いことでないと思いますが、看護師不足は解消するためには、そこに頼るだけでなく、病院をはじめとした事業所が自ら採用活動を強化し、看護師の採用と定着を成功させるためのロードマップを描く必要があります。
この記事では、私が紹介会社にいた際に感じていた医療機関の採用における課題を洗いだし「あるべき姿」を定義した上で、その差分を埋めるための具体的な解決策を提示していきます。
看護師採用・定着プロセスの全体像と課題
看護師の採用から定着までのプロセスは、以下の5つの段階で構成されます。多くの事業所が各プロセスで抱えている課題を洗い出していきます。

1. サイト閲覧/口コミ(認知)
多くの事業所は、自社サイトのコンテンツが不十分であったり、SNSを効果的に活用できていなかったりするため、情報を届けたい看護師にリーチできていません。その結果、通勤圏内に住む潜在的な候補者にも自社の存在が知られていない状況が生じています。
2. 登録・応募(興味・関心、検討)
求職者の属性や興味といった情報を適切に取得・管理できていないことが大きな課題です。面接を希望する求職者にしかアプローチできず、登録や応募があったにもかかわらず、その後の適切な対応(タイミング、頻度、内容)ができていないため、貴重な機会を逃してしまいがちです。また、直接求職者と話す機会をつくり出せていないことも問題です。
3. 見学・面接(検討)
見学や面接を通じて、求職者の志望度を高められていないケースが多く見られます。さらに、面接の対応が事務長だけというケースも多く、実際に一緒に働くことになるメンバーと求職者が話す機会がないため、入職後のミスマッチにつながるリスクが高まります。
4. 内定承諾(入職)
内定を出せる候補者が見つからない、あるいは内定を出しても辞退されるという問題が頻発します。これは、面接時に入職への不安を払拭できていないことや、面接から条件提示までの期間が長く、その間に求職者が他社に流れてしまうことが原因です。
5. 定着・活躍(継続)
入職後のフォロー面談や、新入職者に期待する役割を伝える機会が設けられていないことが課題です。オンボーディングの仕組みがないため、早期離職や組織への不満が増加し、定着率が低下します。
採用成功への「あるべき姿」と解決策
これらの課題を解決していくためには、各段階での「あるべき状態」を理解し、自事業所における解決策を導き出すことが重要です。
サイト閲覧/口コミ(認知)
通勤圏内の看護師に自事業所のことが正しく理解されている状態を目指します。これにより、自社にマッチした人材からの興味・関心を効率的に引き出すことができます。求職者も紹介会社に慣れて来ているので紹介会社のサイトではなく自ら検索をして気になっている病院やクリニック、施設のサイトをチェックします。そもそも自社サイトがない場合はすぐに作成してください。
解決策
- ウェブサイトの強化
事業所名で検索されたとき必ず1ページ目に自社サイトが来るようにサイトを作成する。その後、職場の雰囲気、働くスタッフの声、教育体制などを紹介するコンテンツを充実させ、求職者が「ここで働きたい」と思えるような魅力を伝える。 - SNSの活用
XやInstagram、LINE公式アカウントなどで、日常の出来事やイベント、スタッフのインタビューなどを定期的に投稿し、親しみやすいイメージを醸成する。 - オンライン(Googleマップ等)の口コミ対策
口コミサイトや転職サイトのレビューをチェックし、ポジティブな評判を促すとともに、ネガティブな意見には真摯に対応する。
登録・応募(興味・関心、検討)
興味を持つ看護師の情報を適切に取得し、丁寧かつ適切なタイミングと内容で対応できる状態を構築します。これは、潜在的な候補者を将来の顧客として育成する上で不可欠です。
解決策
- 求職者情報の管理
応募者の属性(年齢、経験、希望条件など)をデータベースで一元管理する。 - 個別フォローの徹底
応募があったら24時間以内に必ずリアクションをする。サンクスメールや電話で連絡を取り、求職者の状況や希望だけでもヒアリングを実施する。 - 面接以外の接点創出
採用担当者だけでなく、現場の看護師も参加する「オンライン個別相談会」や「カジュアル面談」などを開催し、求職者が気軽に話せる場を設ける。
見学・面接(検討)
履歴書や希望条件にこだわりすぎず、見学や食事会など、直接会って相互理解を深める機会を定期的につくります。対面でのコミュニケーションを通じて、志望度を向上させることができます。
解決策
- 見学プログラムの改善
ただ施設を案内するだけでなく、実際に働く看護師と話す時間を設ける。可能であれば見学時には師長や現場の看護師とも触れ合いながら、職場のリアルな雰囲気が伝わるようにする。 - 多角的な面接体制
事務長や人事だけでなく、師長や現場の看護師も面接に加わることで、求職者と働くメンバー双方の相互理解を深める。全員が同席していなくても10分だけでも話せる時間があるとGOOD。 - 相互理解を重視した面接
履歴書やスキルだけでなく、求職者のキャリアビジョンや人柄について丁寧にヒアリングし、自社の理念とのマッチ度を確認する。
内定承諾(入職)
面接後も適切なフォローを継続し、入職に対する不安を払拭するだけでなく、入職後の具体的な働き方をイメージしてもらえるようにします。これにより、内定承諾率を高めることができます。
解決策
- 迅速な対応
面接直後が求職者は最も入職に対して温度感が高い状態。できるだけ早く合否を連絡をする。条件提示も含めて1週間以内には伝達する。もし1週間を超える場合はその旨を求職者に伝える。 - 丁寧なフォローアップ
内定後も、電話やメールで連絡を取り、入職にあたっての不安や疑問がないか確認する。「フォロー面談」や「食事会」などを開催し、入職へのモチベーションを維持する。 - 入職後のイメージを具体的に
勤務シフトの例や、入職後の研修・教育プログラムの詳細を伝え、入職後の働き方を具体的にイメージしてもらう。
定着・活躍(継続)
オンボーディングの仕組みを設計し、入職前後のギャップを最小限に抑えます。新入職者が期待される役割を正しく理解し、納得して業務に取り組める環境を整えることで、長期的な活躍へとつなげます。
解決策
- オンボーディングプログラムの導入
入職から一定期間(3〜6ヶ月など)を新人教育期間と定め、部署のルールや期待される役割を明確に伝える。 - メンター制度の構築
新人看護師一人ひとりに年齢や経験の近い先輩看護師をメンターとして配置し、業務面だけでなく精神的なサポートも行う。 - 定期的なフォロー面談
入職1ヶ月後、3ヶ月後など定期的に面談を実施し、業務の進捗や悩みをヒアリングする。必要に応じて部署異動や業務内容の見直しを検討する。
優先順位の高い課題から1つずつ改善をしていく
これらの解決策を実践することで、人材紹介会社への依存度を減らし、自社の力で看護師の採用と定着を成功させることが可能になります。
まず重要なのは、現状の採用プロセスを客観的に見つめ直すことです。事業所のどこに課題があるのかを明確に特定し、そこから改善の第一歩を踏み出すことが不可欠です。この記事で提示したロードマップは、そのための具体的な道筋を示しています。
たとえば、「サイト閲覧/口コミ」の段階で候補者にリーチできていないのであれば、ウェブサイトのコンテンツを充実させたり、SNSでの情報発信を強化したりすることから始められます。また、面接の段階で内定辞退が多いのであれば、面接体制を見直したり、内定後のフォローアップを丁寧に行ったりすることで、改善が見込めます。
これらの取り組みは、一時的な採用数の増加だけでなく、採用した看護師が長く活躍してくれることにも繋がります。入職後のフォローアップ体制を整えることは、職場の満足度を高め、離職率の低下に直結します。結果として、安定した人材確保が可能となり、医療サービスの質向上にも貢献するでしょう。
自事業所の課題を特定し、小さなことからでも一つずつ改善を積み重ねていくこと。それが、外部に頼るだけの採用活動から脱却し、自律的な組織へと成長するための鍵となります。
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