新しい職場や業務に挑戦するとき、多くの人が「早く成果を出さなきゃ」「周りに遅れをとりたくない」と焦りがちです。しかし、成長には段階があり、最初から完璧にできる必要はありません。むしろ、着実にスキルを身につけることで、自信を持ち、長く活躍できる人材へと成長していくことが大切です。
そこで役立つのが、日本の伝統的な学びのプロセス「守破離(しゅはり)」の考え方です。この考えを取り入れることで、焦らず確実に仕事を覚え、自分のスタイルを確立することができます。
この記事では、「守破離」をキャリアの成長ステップに当てはめながら、新しい環境でどのように学び、成長していくべきかを解説していきます。
「守破離」とは?
「守破離」は、もともと茶道や武道などの伝統芸能の世界で使われる言葉です。これは、学びと成長のプロセスを示す概念で、仕事やキャリアの形成にも応用することができます。
- 守(しゅ):基本を忠実に守る。師匠や先輩の教えを徹底的に学び、型を身につける段階。
- 破(は):基本を応用し、自分なりの工夫を加えていく。型を崩しながら、より効率的な方法を模索する段階。
- 離(り):自分自身のスタイルを確立し、独自の方法で成果を出す。新たな価値を生み出せる段階。
仕事でもこの「守破離」のステップを意識することで、確実に成長し、自分らしい働き方を見つけることができます。
「守」:基本をしっかり身につける
焦らず、まずは観察と吸収
新しい環境では、いきなり自分なりのやり方を模索するのではなく、まずは既存のやり方を学ぶことが重要です。業界や職種、その会社での基本の型を身に付けましょう。
- 会社のルールや文化を理解する。
- 先輩や上司の仕事の進め方を観察し、ポイントを押さえる。
- 指示を正確にこなし、報連相を徹底する。
看護師から産業保健師へ転職したAさんの1年目
Aさんは病院で看護師として働いた後、企業の産業保健師として転職しました。最初は医療現場とは異なる企業の文化や労働安全衛生の知識不足に戸惑いましたが、先輩保健師の面談に同席したり人事の方に仕事の進め方を直接聞いたりして学びながら、社員の健康相談や職場のルールについて学びました。業務の進め方を忠実に守り、企業で求められる対応を理解することで、周りからの信頼も得られるようになりました。
最初から「自分流」はNG
新しい環境に入ると、過去の経験から「もっとこうした方がいいのでは?」と考えることもあるでしょう。しかし、「守」の段階では、まずは目の前のやり方を素直に受け入れることが大切です。
- 学ぶ姿勢がなく、はじめから「自分の考え」を優先する。
- ルールや手順の理由や背景を知ろうとしない。
- 過去の成功体験をひきずって聞く耳を持たない。
「破」:自分なりの工夫を加える
少しずつ試行錯誤
「守」の段階で基礎をしっかり固めたら、次は「破」のステップです。このフェーズでは、自分なりの工夫や効率化を考え、試していくことが重要になります。
- 業務を進める中で「もっとこうした方が良いのでは?」と考える。
- 先輩や上司のやり方を応用し、少しずつ自分のスタイルを模索する。
- 仕事のスピードや質を高める工夫をしてみる。
看護師から産業保健師へ転職したAさんの3年目
Aさんは基本的な業務を習得した後、社員の健康相談のデータを分析し、特定の時期にストレスや体調不良の相談が多いことに気付きました。そこで、産業医や人事と連携し、予防的な健康管理セミナーを提案。従来のやり方を踏襲しつつも、新しいアプローチを加えることで、社員の健康意識向上に貢献し社内での評価も高まりました。
自分一人で好き進むのはNG
基本のルールや型が理解できたからと言って、一人だけでは新しいことをやろうとしてもうまくいきません。ステークホルダーをうまく巻き込んでいくことが大切です。
- 基本を無視して独自のやり方に走る
- ステークホルダーとの調整を怠る
- 改善による効果が不明なまま変更する
「離」:自分のスタイルを確立する
自分の強みを活かすフェーズ
「破」の段階を乗り越えると、いよいよ「離」のフェーズに入ります。この段階では、学んできたことをもとに、自分のやり方を確立し、他の人に影響を与える立場になっていきます。
- 自身の経験や知識を社内外に発信し、周囲に良い影響を与えている。
- 自身の強みを深掘りして、自己実現への取り組みができている。
- 他者と協力しながら新しい価値を創造できる。
看護師から産業保健師へ転職したAさんの数年後
Aさんは産業保健師としての経験を積み、会社で新しく健康管理プログラムを導入するプロジェクトメンバーに選ばれました。さらに、自身の経験を活かし学会発表にも取組み、社内のみならず社外にも影響を与える立場に成長し、社内はもちろん、業界のなかでも評価をされる存在になりました。
これまでのやり方や組織を完全否定するのはNG
仮に異動や転職で今の組織を離れたり、独立をすることがあっても決してこれまでのやり方や組織を完全否定するのはやめましょう。それは自分のキャリアを否定することにも繋がりますし、これから先の未来でも一緒に仕事をしたり、何かしら関わることはあります。
- 過去のやり方や組織を完全に否定する。
- 人間関係が崩れるような離れ方をする。
- 組織文化やルールを無視して独断で変革を進める。
まとめ
「守破離」の考え方をキャリアに応用することで、焦らず着実に成長し、自分のスタイルを確立することができます。
- 守:基本を忠実に学び、しっかり身につける。
- 破:試行錯誤を重ねて、自分なりの工夫を加える。
- 離:自分のスタイルを確立し、周囲に影響を与える存在になる。
新しい環境でも、このステップを意識することで、確実に成長できるでしょう。焦らず一歩ずつ、あなたらしいキャリアを築いていきましょう。