2035年に向けた産業保健看護職キャリアの未来予想図 

人生100年時代、コロナによる働き方改革や労働者の高齢化によって産業保健のニーズは多様化しています。それにより産業保健看護職の役割はますます重要になると予想されています。本記事では、2035年に向けて産業保健看護職に求められるスキルやキャリア形成の考え方についてまとめています。

目次

2035年までに日本全体の働き方はどう変わるのか?

産業保健看護職の働き方に影響するのは、日本全体の労働者のことだろう。ということでまずは日本全体の労働者の働き方や仕事における人の役割にどのような変化が生じて、産業保健にどのような影響があるのかを考えてみました。

労働者不足を背景に多様化する働き手のニーズに応じた制度改革

労働者不足が深刻化する中、女性の社会進出や外国人労働者の増加がますます進んでいくと考えられます。このような状況下で、働き方改革もさらに求められ、企業の健康管理には、多様な働き手のニーズに対応した柔軟な取り組みが必要となるでしょう。

参考までに外国人労働者数の推移をみると、令和5年には200万人を超えました。(※1)仮に2035年までこのペースで増加すると2035年には外国人労働者数は約377万人(※2)になると予想されています。

参考)
※1「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)|厚生労働省
※2 労働市場の未来推計2035 – パーソル総合研究所

働き方の多様化による健康管理ニーズの個別化

リモートワークや副業解禁、さらにはワークシェアリングの普及により、働き方の選択肢が広がっています。これにより、従業員一人ひとりのライフスタイルに合わせた働き方が可能になり、健康管理のニーズも個別化が進むと考えられます。

AIやDXの進化による人間の仕事の役割の変化

AI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進化により、多くのルーチンワークが自動化され、人間はこれまでの作業型の役割から、創造性や判断力を活かした付加価値の高い業務を担うようになっています。この変化により、これまでとは異なる仕事におけるストレスが増し、心身に負担がかかる可能性があります。産業保健の分野では、メンタルヘルスケアやストレス対策はますます重要になるのではないでしょうか。

産業保健看護職の働き方・雇用形態はどう変わるのか?

産業保健看護職は2035年までに、次のような働き方や役割の変化が予測されます。

まずは働き方についてですが、現在も産業保健看護職は正社員・派遣・業務委託と企業によってニーズが異なるため様々な雇用形態が存在しています。これらの雇用形態は2035年に向けてどのようになっていくのでしょうか。正社員が増える理由、業務委託が増える理由という観点でまとめてみました。

正社員が増える要因は、大企業における内製化の拡大と法制化

  • 大企業における産業保健、健康経営の重要性の高まり
    人的資本経営や健康経営の流れが加速していくと、特に従業員数が多い企業ではそれらの土台となる産業保健体制を強化し、正社員として配置する動きが進む可能性があります。
  • 産業保健看護職の配置義務の法制化
    現在、産業医とは違い、産業保健看護職には企業に配置義務はありません。
    これがもし仮に、従業員数が300人以上の事業所には看護職を1名配置が義務化されると何名くらいの保健師が必要になるでしょうか?令和3年の総務省のデータから300人以上の事業所は日本に約13,000事業所あります。そのうち既に正社員が配置されている可能性が高い従業員数1,000人以上の事業所が1,813カ所ありますのでそこを差し引いて考えても11,000事業所で配置が必要となり、新たに11,000人の保健師・看護師の需要が生まれることになります。

データ参照元)経済センサス‐活動調査 令和3年経済センサス‐活動調査 事業所に関する集計

かなり乱暴でこのような制度が突然成り立つとは考えにくいですが、今後10年というスパンで見れば、徐々に形になっていく可能性は十分に考えられるでしょう。

一方で、これぐらいのインパクトがないと正社員で働く保健師・看護師が一気に増えるということは考えにくいと思っています。

業務委託が増える要因は、中小企業支援とオンライン化

  • 中小企業やスタートアップ支援の拡大
    ストレスチェックの義務化が中小企業にも広がっていっても、正社員として産業保健看護職を配置するのが難しい企業では、外部委託のニーズが高まっていくことが考えられます。
  • 産業保健のオンライン化
    リモートワークの普及により、従業員が分散して働くケースが増加します。それに対応したオンライン面談やチャットツールを活用したメンタルヘルス支援は、コスト効率が良く、企業にとって利便性が高い手段となります。

これらの要因から、中小企業やスタートアップでは、短時間勤務やリモート形式を活用した外部委託が進むと考えられます。それに伴い、業務委託の看護師・保健師のニーズも増加するでしょう。

産業保健看護職に求められる役割の変化

中小企業へのストレスチェック義務化への対応

2024年10月に従業員50人未満の事業場にも義務化される方針が固まり、2035年に向けては中小企業へのストレスチェックへの対応が広がっていくことが予想されます。これに伴い、産業保健看護職が中小企業におけるメンタルヘルス対策にとってますます重要な役割を担うことが予想されます。

参考)ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等|厚生労働省

多職種連携を円滑にするプロジェクトマネージャースキル

産業保健のニーズが多様化していくと、産業医や心理職、リハビリ職、管理栄養士等の専門職や人事労務担当者から管理職まで、様々な人たちと協働しながら常にあるべき産業保健を模索し構築していく必要性が高まります。そのハブとして期待をされているのが産業保健看護職だと考えています。そこでは専門的な知識だけではなくプロジェクトマネージャーのような調整力や交渉力が、より求められていくと考えています。

多様化するニーズに対して深く、広く対応できる個の強み

育児や介護と仕事の両立支援、さらには外国人労働者への対応など、既に課題が顕在化していることもたくさんあります。さらに今後、労働者の高齢化や気候変動による健康への影響といった領域でも新たな課題が出てくるかもしれません。その際には、従業員の多様な背景に合わせた支援が求められます。すべて網羅的に学んでいくことも大切ですが、産業保健のなかでも専門性を深めたり、語学力やAI等のテクノロジー活用力といった産業保健+αの強みも求められてくると考えています。

おわりに

これから2035年に向けて、産業保健看護職はますます重要な役割を果たすことが予想されます。正社員、業務委託それぞれの働き方にはメリットとデメリットがあり、どちらを選ぶかは自身のライフスタイルに合わせて決定することが大切です。

また、産業保健看護職として自律したキャリアを築くためには、専門知識の強化や柔軟な働き方への適応が求められます。多様化していく産業保健業務のなかで自身の強みを活かし、やりがいを感じながら、みなさんが自分らしいキャリアを歩んでいけることを願っています。

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この記事を書いた人

けんいちのアバター けんいち キャリアコンサルタント

看護師の転職支援に約10年携わり、キャリアコンサルタントを取得。
2020年に看護師キャリアコミュニティ「ArchNurse」を立ち上げ、キャリア支援のプロジェクトを複数展開しながら、産業保健、健康経営関連サービスの企画職として従事。

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